劇団銅鑼・演劇『からまる法則』公演について 作者・小関直人
~ホームレス支援団体を舞台に、人と人との繋がりを描く~
ある容器に、100度お湯と0度の水を仕切って入れておく。間にある仕切りを取り去ると、自然に混ざり合い全体が中間の温度に近づいていく。色のついた水を一滴、透明な水に垂らすとその色は全体に広がっていく。自然界はそうやって、まざりあって「からまる」ようになっているようです。「エントロピーの法則」(熱力学第二法則)はそれに近い法則です。熱は温かいものから冷たいものへ移動する。冷たいものから温かいものへ移動することはない。
しかし、忙しさに追われる現代社会では、他者との関わりを疎ましく感じ、つい自我を通そうとしてしまうものです。
この物語の主人公・弁護士「真理子」もそんな一人です。彼女は大手企業の顧問弁護士として、他者に心を許すことなく自分の能力を信じて地位や業績を積み上げていきます。しかし、多忙なその生活のなかで心は満たされていませんでした。
ある日、彼女のもとに幼くして別れた父が病気だという知らせが届きます。二十数年ぶりに父の家を訪ねてみるとそこはホームレス支援団体の拠点となっていたのです。そこに保護されている人たちは、真理子が企業弁護士として切り捨てていたような人たちでした。
真理子は様々な人と出会います。病気の告知に絶望している父、支援活動を手伝う弁護士、自分の学生時代を知る恩師、路上で保護された40代のエンジニアの男性、失踪を繰り返す老人、発達障がいを持つ青年、過労で父を亡くした女子大生、活動に反対する近所住民など。
そして、主人公の真理子は、そのような人たちと出会い、からまるなかで、自然体の自分を発見してゆくのです。
人間は生きていると、何故こんな思いをしなければならないのかというような出来事に遭遇する時があります。でも、後になって考えてみると、その出来事があったからこそ新たな価値観を得て、一歩成長出来たと感じることも多いのではないでしょうか。
時に人生で出会う苦悩は、自分に足りないところを補ってくれる「人生の側」からのカウンセリングと捉えると、その時の気持も少し楽になるのかも知れません。
強引にではなく、ふっと手の力を緩めた時にコードのからまりが解けるように、エゴを捨てて「からまり」の中に身体を預けた時、そして成すべきことに無心で身を捧げた時、本当の幸せは訪れる。
そして、それが「からまる法則」・・・なのかもしれません。
ストレスの何かと多い現代ですが、そんな人たちが織りなす物語をご観劇いただき、ふっと・・肩の力を抜いて自然体の自分を感じて頂ければ幸いです。